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金沢地方裁判所 昭和42年(行ウ)4号 判決 1971年2月19日

原告 株式会社片山津レイクホテル

被告 金沢税務署長

訴訟代理人 松崎康夫 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

一、原告

(一)  被告が昭和四一年六月三〇日付でなした原告に対する昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日までの事業年度の法人税額を一、七〇八、九八〇円、無申告加算税額を一七〇、八〇〇円とする旨の課税処分は、法人税額四七三、〇二〇円、無申告加算税額四七、三〇〇円を超える部分を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨。

第二、双方の主張

一、請求原因

(一)  被告は、昭和四一年六月三〇日原告の昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日までの事業年度(以下、本件係争年度という。)の法人所得金額を四、四八七、〇三一円、その税額を一、五五五、〇六〇円、留保所得金額を一、五三九、二〇〇円、その税額を一五三、九二〇円、以上合計法人税額一、七〇八、九八〇円、無申告加算税を一七〇、八〇〇円と決定し(以下、本件課税処分という。)、その旨原告に対し同日付で通知してきた。

(二)  しかし、本件課税処分は原告の本件係争年度における法人所得金額を過大に決定したものである。

(三)  そこで、原告は昭和四一年八月一日被告に対し異議申立をなしたところ被告は同年一〇月一八日これを棄却したので、原告は同年一一月二二日金沢国税局長に対し審査請求したが同局長は昭和四二年五月八日これを棄却した。

よつて、原告申立欄記載のとおりの裁判を求める。

二、請求原因事実に対する被告の答弁および主張

(答弁)

(一)項および(三)項は認めるが、(二)項は争う。

(主張)

(一) 原告は、昭和一一年一〇月一一日商号を「片山津観光株式会社」、資本金を五万円、事業目的を土地家屋の所有賃貸および売買業、本店所在地を金沢市七ツ屋町一六ノ一として設立されたものであつて、昭和三八年四月一日本店を同市彦三町一丁目四番二号に移し、昭和四〇年五月二五日事業目的にホテル旅館経営、観光事業を追加し、昭和四一年八月五日商号を「株式会社カタヤマズレイクホテル」と変更し、同月一五日事業目的から土地家屋の所有賃貸を削除するとともに本店を石川県加賀市片山津温泉ア九七番地の三に移し、同年一〇月一二日石川県知事から旅館業の営業認可を受け、更に昭和四四年四月二三日商号を「株式会社片山津レイクホテル」に変更したものであつて、法人税法上のいわゆる同族会社である。

(二) 本件係争年度における原告の損益計算は、次のとおりである。

表<省略>

被告は右にもとづいて原告主張(請求原因(一)項)のとおり決定したものである(但し、右によると法人税額は決定額を超えることになるが、なお決定額を維持する。)。

(三) (認定賃料について)

原告は石川県加賀市片山津温泉ア九七番地の三の土地と同地上所在の木造亜鉛鉄板葺二階建旅館および附属ボイラー室延一六九・〇五坪(以下、「本件土地・建物」という。)を所有し、訴外新日本観光株式会社(以下「訴外会社」という。)が本件建物を使用して本件係争年度において温泉旅館(以下、「本件温泉旅館」という。)を経営していた。

従つて原告は本件土地・建物を訴外会社に賃貸していたものと認められるところ、その賃貸料相当額の計算は、「地代相当額」と「純家賃額」の合計額によることとし、「地代相当額」については原告の貸借対照表計上額に商事利率を乗じた金額に固定資産税の経費を加算し、「純家賃額」については取得価額に商事利率を乗じた金額に付随した固定資産税、火災保険料、支払利息、減価償却費等を加算したものであるが、その計算を数式で示せば次のとおりである。

土地 1,190,353円×0.06〔商業利率〕= 71,241円+4,470円〔固定資産税〕= 75,711円…<1>

建物 17,278,714円×0.06 = 1,036,722円+133,470円〔固定資産税〕+166,000円〔火災保険料〕+738,012円〔減価償却費〕+972,833円〔支払利息〕= 3,047,037円…<2>

<1>+<2>= 3,122,748円

三、被告の主張に対する原告の答弁および反論

(答弁)

(一)(一)項は認める。

(二)(二)項の損益計算表の収入の部「認定賃貸料」、支出の部「土地原価」、「給料」、「減価償却費」の各科目の金額を争うが、その余は認める。

(三)(三)項中、原告が本件土地・建物を所有していることは認める。訴外会社が本件温泉旅館の経営主体であつたとの点につき、原告は初めこれを認めたがそれは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるからその自白を撤回し、否認する。

同項中、賃貸借の事実は否認する。仮りに賃貸借契約があつたとしても認定賃貸料の算出方法および数額を争う。

(反論-認定賃貸料について)

(一) 本件温泉旅館の経営は、当初訴外会社が行なう予定で石川県知事の旅館営業の許可を受け、原告はその用地を訴外会社に売渡してあつた。しかるに、訴外会社は銀行から融資を得られなかつたためにわかに原告において旅館を経営することとなり、用地の返還を受けて原告が本件建物を建てた。従つて、本件旅館営業の名義は訴外会社であるが、その実質は原告において営業していたものであるから、課税対象となるべき賃貸料はない。

(二) 仮りに課税対象となるべき賃貸料があつたとしても、訴外会社は営業不振で赤字決算となり、賃貸料の支払いは不能の状態にあつた。従つて賃貸料は貸倒れとして処理せざるを得ず利益として計上できないところである。

(三) 企業用建物の賃貸料の算定については、その不動産を利用することにより生ずる収益を無視してはならず、収益賃料(不動産を利用した場合における収益よりみた賃料)を考慮しない被告主張の認定賃料額は実情を無視した苛酷な金額であつて失当である。

四、原告の自白の撤回に対する被告の異議

原告の自白の撤回には異議がある。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、請求原因(一)・(三)項と被告の主張(一)項のすべての事実並びに被告の主張(二)項の損益計算表中収入の部「土地売却代」、支出の部「土地造成費」、「雑費」、「支払利息」、「固定資産税」、「火災保険料」、「事業税認定損」の各科目の金額については、当事者間に争いがない。

二、以下、各争点について順次判断する。

(一)  認定賃貸料について

原告が本件土地・建物を所有していることは当事者間に争いがない。

ところで、訴外会社が本件温泉旅館の経営主体であつたとの被告の主張につき、原告は初め自白しその後これを撤回したが被告は右自白の撤回に対し異議を述べるので、右自白の撤回の許否につき検討するに、原告は右自白は真実に反する旨主張するが、証人西谷一正の証言中これに符合する部分は措信し、難く他に原告の右自白が真実に反することを認めるに足る証拠はない。従つて、原告の右自白の撤回は許されないから、結局訴外会社が本件温泉旅館の経営主体であつたことは当事者間に争いがないことに帰する。

また<証拠省略>によると、原告は訴外会社が本件土地・建物を使用して温泉旅館を営むにあたり訴外会社から本件土地・建物使用の対価をなんら収受していないこと、そしてそれは西谷一正が両会社の実質上の経営者として両会社の実権を掌握しており両会社は同人の事業として殆んど一体をなしているからに外ならないことが認められ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。

右認定事実と前示のとおり原告がいわゆる同族会社であることを併せ考えると、原告が訴外会社に対し本件土地・建物を無償で使用させていたことは、即ち原告が当然に享受し得べき経済的利益たる本件土地・建物の賃貸料相当額を無償で訴外会社に授与していたことを意味し、従つて原告の利益金の無償処分としての性格を有しているものというべきであつて、これはいわゆる「役員賞与」が会社の利益処分であるものと解されるのでなんら異なるところはない。

そうする、本件土地・建物の賃貸料相当額は原告の益金を構成するものと解するのが相当である。

そして、この理は訴外会社から現実に賃貸料その他対価の給付がなされたか否か、あるいは賃貸料その他の対価の給付が不能であつたか否かによつて左右されるものでないことは勿論であるから、この点に関する原告の反論(一)、(二)は採用の限りではない。

次に、本件土地・建物の賃貸料相当額如何を考えるに、鑑定人寄川義雄の鑑定の結果、<証拠省略>を総合すると、本件土地・建物の本件係争事業年度における年間賃貸料相当額は、原告の反論((三))の如くいわゆる収益賃料を勘案しても二八六万四、四三〇円と認めるのが相当である。右認定に反する証人堤博康、同西谷一正の各証拠は前掲各証拠に照して措信し難く、他に右認定を覆えずにたりる証拠はない。

そうすると、被告主張の認定賃貸料は過大のそしりを免れない。

(二)  土地原価、給料、減価償却費について

<証拠省略>によると、「土地原価」、「給料」、「減価償却費」の各金額はいずれも被告主張のとおり認めるのが相当であつて、右認定に反する証人堤博康の証言は信用できないし、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。

三、以上の次第であるから、被告の原告に対する本件課税処分には本件土地・建物に関する認定賃貸料を過大に算定した非違があるが、課税額それ自体は当裁判所が認定した賃貸料に従つて算定した額の範囲内にあることは計算上明らかであるから、結局、本件課税処分にはなんら違法はないことに帰する。

よつて、本件課税処分は適法であつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 至勢忠一 北澤和範 川原誠)

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